GENETICS GUIDE
スーパーで買ったミニトマトから、
世界にひとつだけの固定種を作り上げるまでの全記録。
難しい遺伝学も、トマトで学べば驚くほど楽しくなります。
STEP 0
スーパーに並ぶミニトマトのほぼすべては「F1種(交配種)」です。
これを知ることが、固定種づくりへの第一歩です。
F1種とは?
「F」は Filial(子孫)の略。F1 は「一世代目の子」を意味します。 農業では、性質の異なる2種類の純系品種をかけ合わせることで、 両親のいいとこどりをした強くて揃った作物を作ります。 スーパーのミニトマトがきれいな粒ぞろいなのはこのためです。
注意点:F1種から採った種を翌年まくと、 性質がバラバラになります。これが「固定種ではない」ということ。 農家は毎年タネ会社からF1種を買い直す必要があります。
固定種とは?
同じ植物から何世代も自家採種を繰り返すと、遺伝子が均一化されて 「毎年同じ性質の実がなる品種」が完成します。 これが固定種(ヘアルームとも呼ばれる)です。 LUDOPICOの種も、10年かけて固定化したものです。
メリット:毎年タネを買わなくてよい。 自分で選抜を重ねることで「自分だけの品種」に育てられる。 種を次世代に残せる。
MENDEL'S LAWS
19世紀の修道士グレゴール・メンデルが、エンドウ豆で発見した遺伝の基本ルール。
トマトでも全く同じことが起きます。
第一法則 / Law of Dominance
2つの異なる遺伝子が組み合わさったとき、どちらか一方(優性)の形質だけが現れます。もう一方(劣性)は隠れますが、消えたわけではありません。
例:赤いトマト(RR)×黄色いトマト(yy)の子どもは全員「赤」になります(Ry)。でも黄色の遺伝子はちゃんと次世代に受け継がれています。
第二法則 / Law of Segregation
親が持つ一対の遺伝子は、次世代に引き継がれるとき必ず2つに分かれ(分離し)、それぞれ半分ずつ子に伝わります。
例:上の赤いF1(Ry)同士をかけると、子(F2)には「赤:黄=3:1」の割合で現れます。これがメンデルが発見した「3対1の法則」です。
第三法則 / Law of Independent Assortment
異なる形質(色・形・大きさなど)はそれぞれ独立して子に伝わります。つまり「色の遺伝」と「形の遺伝」は互いに影響しません。
例:赤くて丸いトマト×黄色くて細長いトマトをかけると、F2世代には「赤くて細長い」「黄色くて丸い」など4種類の組み合わせが出てきます。
優性(顕性)
ペアになったとき表に出る形質。大文字で書く(例:R)
劣性(潜性)
隠れる形質。でも消えるわけではなく次世代に伝わる。小文字(例:r)
ホモ接合(純系)
同じ遺伝子をペアで持つ状態(RR / rr)。固定種はこの状態
ヘテロ接合(雑種)
異なる遺伝子をペアで持つ状態(Rr)。F1種はこの状態
F1 → FIXED VARIETY
必要なのは時間と愛情と、少しの記録だけ。
道具は不要。誰でも今日から始められます。
スタート:スーパーで購入
雑種(ヘテロ)100%
スーパーで美味しいミニトマトを購入。食べながら、種を取り出して洗います。これがF1種です。
この世代でやること
POINT
品種名はわかりませんが、それが面白さでもあります。複数種類から採取するとなお楽しい。
初めての採種・選抜スタート
雑種 約75% / 固定化 約25%
F1から育てた実がF2世代です。メンデルの分離法則が発動し、色・形・大きさがバラバラの実がなります。ここが最も大切な選抜のステージ。
この世代でやること
POINT
この代は「ぜんぜん違う実がなる」のが正常。バラつきを楽しみながら一番気に入ったものを選びましょう。
選抜と採種を繰り返す
固定化が徐々に進む(約50〜90%)
毎年「気に入った株から種を採る」を繰り返します。同じ特徴を持つ株が増えてきたら、固定化が進んでいる証拠です。
この世代でやること
POINT
袋がけが面倒な場合、トマトは自家受粉が多いのであまり厳密にしなくても次第に固定されます。
形質がほぼ安定してくる
固定化率 約95〜99%
同じ株から育てた苗が、ほぼ同じ形・色・味の実をつけるようになります。これが固定化の目印です。
この世代でやること
POINT
ここまで来たら「自分だけの品種」がほぼ完成。名前を付けてあげましょう。
固定品種として確立
固定化率 99%以上(実用的な固定種)
10〜15世代繰り返せば、一般に「固定種」と呼べるレベルに達します。毎年同じ品質の実がなり、採種を繰り返すだけで品種が維持できます。
この世代でやること
POINT
LUDOPICOは10年をかけてこの段階に達しました。固定種の種は毎年買い直す必要がなく、一生ものの財産です。
完全固定・ヘアルーム品種へ
完全固定(ほぼ100%ホモ接合)
20世代に達すると、理論上はほぼ100%が固定化します。独自の特徴を持つ「ヘアルーム品種(家宝品種)」として、子や孫へ受け継いでいける存在になります。
この世代でやること
POINT
あなたが育てた品種は、世界にひとつだけのトマトです。次の世代に受け継いでいきましょう。
REFERENCE
自殖(自分の花粉で受粉すること)を繰り返すと、ホモ接合体の割合は以下の計算式で高まります。
FORMULA
※ n は世代数。F1を0世代目とした簡易モデル
世代
固定率
状態と選抜のポイント
F1
0%
すべてが同じ形質(ヘテロ接合)。ここから旅が始まります。
F2
50.0%
形、味、色がバラバラに。ここで数千株から「理想の1株」を選び抜く必要があります。
F3
75.0%
まだまだ「先祖返り」や「奇形」が出ます。選抜漏れが大量に発生。
F4
87.5%
少しずつ顔つきが揃ってきます。
F5
93.75%
大半の株は安定しますが、数株に不安定な形質が残ることがあります。
F6
96.875%
一般的に「固定種」と呼んで良いレベル。商業的な種子はこのあたり。
F7
98.44%
ほぼ揃っており、固定品種として十分通用するレベル。
F8
99.22%
100株植えても、変な個体は1株出るか出ないか。
F10+
99.9%〜
遺伝的な揺らぎはほぼ消失。その土地の風土に馴染んだ「地方品種(エアルーム)」の域へ。
OKINAWA ADVANTAGE
沖縄の温暖な気候が、固定種づくりを加速します。
種まきから採種まで約120日。1年に3回まわせば、
2年間でF7の固定率98.44%に到達できます。
約23℃
年間平均気温
120日
1サイクル
3世代
年間世代数
6世代
2年間合計
120日サイクル — 種まきから採種まで
種まき
0日目育苗トレイに播種。発芽まで25〜28℃を保つ。
発芽
7〜10日目双葉が展開。間引いて1穴1株に整理する。
定植
25〜30日目本葉4〜5枚で畑またはプランターへ移植。
開花
55〜65日目第1花房が開花。人工授粉で確実に着果させる。
着果・肥大
75〜85日目実が膨らみ始める。水と肥料のバランスが重要。
収穫
95〜105日目完熟したものを収穫。採種用の株をここで決める。
採種 → 次世代へ
110〜120日目完熟果から種を取り出し乾燥。次世代の播種へ。
2年間の世代進行スケジュール
1年目
第1世代
F1 → F2
1月〜4月
50.0%
第2世代
F2 → F3
5月〜8月
75.0%
第3世代
F3 → F4
9月〜12月
87.5%
2年目
第4世代
F4 → F5
1月〜4月
93.75%
第5世代
F5 → F6
5月〜8月
96.875%
第6世代
F6 → F7
9月〜12月
98.44%
本州では同じ道のりに7〜8年かかりますが、沖縄ならわずか2年で固定率98.44%(F7相当)に到達できます。 暖かい気候が、育種家にとっての最大の武器です。
CROSSBREEDING
2つの品種を意図的にかけ合わせることで、
自然界には存在しない独自の形・色を作り出せます。
BASIC TECHNIQUE
01
蕾を選ぶ
まだ開いていない蕾(明日開きそうなもの)を選ぶ。受粉の母親になる側の花
02
袋がけ
選んだ蕾に小さなガーゼや薄手の袋をかぶせ、外の花粉が入らないようにする
03
花粉を採る
父親にしたい品種の開いた花を綿棒でこすり、花粉をたっぷりつける
04
受粉させる
袋を外した蕾の雌しべ(中心の棒)に綿棒を当て花粉をつける。再び袋をかぶせる
ROUND × PLUM
中間の卵型・涙型が生まれる
丸いミニトマトとプラム(楕円)型を交配すると、F2世代に丸・楕円・細長・涙型など様々な形が出現します。気に入った形を選抜して固定化すれば、完全オリジナル形状の品種が完成。
YELLOW × RED
オレンジ・アプリコット色が誕生
黄色品種と赤色品種をかけ合わせると、F2世代に黄・橙・赤・サーモンピンクなど多彩な色が現れます。これはトマトの色が複数の遺伝子で制御されているため。自分好みの色を選び抜いてください。
GIANT × MICRO
中玉・個性的サイズが出現
プチトマト(1〜2g)とミニトマト(10〜15g)を交配すると、様々なサイズの子孫が生まれます。5〜8gの中間サイズや、大きさのバランスが面白い房型なども出現することがあります。
CAUTION & TIPS
F2世代の「分離」を楽しむ
交配した品種のF2世代は、多種多様な形・色・味が出ます。これはメンデルの分離法則通りの現象で「失敗」ではありません。この多様性の中から自分好みを選ぶのが育種の醍醐味です。
記録なしでは品種は作れない
「どの株から種を採ったか」「どんな特徴だったか」を毎年メモしてください。記録がないと選抜の基準がブレ、何世代かけても固定できません。スマホで写真を撮るだけでも大きく違います。
隣に異品種を植えると交雑する
トマトは主に自家受粉ですが、虫や風で他の品種の花粉が入ることがあります。固定種を守りたい場合は、袋がけかハウス栽培で隔離しましょう。家庭菜園なら神経質にならなくても大丈夫です。
年数がかかるのが当たり前
「今年始めて来年完成」はありません。F10まで最低10年かかります。でも毎年収穫しながら少しずつ進化していく過程そのものが楽しいのです。焦らず、育てながら育種を楽しんでください。
FAQ
Q. スーパーのトマトから本当に固定種が作れますか?
A. はい、できます。ただし時間がかかります。スーパーのミニトマトはF1種(1代雑種)なので、その種から育てると様々な形質が出てきます。そこから好みの株を選び抜いて採種を繰り返せば、10〜20年かけて固定種が完成します。急がず長く楽しめる趣味として最適です。
Q. F2世代に変な形のトマトがなるのはなぜ?
A. これはメンデルの第二法則「分離の法則」が現れているためです。F1種は両親の遺伝子を半分ずつ持っていますが、その遺伝子が次世代(F2)で分離し、様々な組み合わせが現れます。これは正常な現象で、失敗ではありません。むしろここから面白い個体を見つけるチャンスです。
Q. 採種するのに特別な道具は必要ですか?
A. 基本的には不要です。種の取り出しにスプーン、乾燥に新聞紙、保管に封筒があれば十分です。人工授粉をする場合は綿棒と小さな袋(お茶の袋やガーゼ)があると便利。記録用のノートかスマートフォンも必需品です。
Q. 種はどのくらい保存できますか?
A. トマトの種は適切に保存すれば3〜5年間発芽能力を保ちます。保存の基本は「涼しく・乾燥した・暗い場所」。シリカゲルとともに密閉容器に入れ、冷蔵庫の野菜室が理想的です。10年以上保つこともあります。毎年少量をまいて発芽確認するのがおすすめです。
Q. 何年くらいで固定種が完成しますか?
A. 実用的なレベルの固定種(F7〜F10)には7〜10年かかります。完全固定(F20)は文字通り20年です。ただし、F5〜F6世代でもすでに「ほぼ同じ形質の実がなる品種」として楽しむことができます。完成を急ぐより、毎年少しずつ変化していく様子を記録する楽しさを味わってください。
Q. LUDOPICOのトマトはどのようにして固定種になりましたか?
A. 沖縄の気候・土壌に適した甘さと耐暑性を重視して、10年以上かけて選抜と採種を繰り返しました。毎年「一番美味しかった株」から種を取り続けることで、沖縄の環境に最適化された独自の固定種が生まれました。これがLUDOPICOの黄金のマイクロトマトです。